東京藝術大学美術学部建築科の入学試験は、文章と図で示された立体を印象ではなく正確に捉え描画を行う[空間構成]と、与えられた素材から空間をドローイングや文章で表現する[総合表現]の2課題で構成されます。
以下に、令和4年度の美術学部建築科入学試験の参考作品とその評価基準を掲載します。令和3年度以前については本ページの下段のリンクから参照できます。
なお、試験問題については、こちらを参照してください。
令和4年度美術学部建築科入試問題用紙(PDF)
また、令和5年度入学試験に関する情報は、大学入試情報サイトに掲載される募集要項を参照してください。(11月頃掲載予定)
東京藝術大学入試情報サイト
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[空間構成] (1日目)
この試験は、与えられた文章が定義する立体を、条件に従って構成・表現する力を問うものです。
本年度は、展開図で示された立体の複雑な形状を把握した上で、これに円すいと球を組み合わせて配置し描写するものでした。
この試験では、例年、立体形状の正確な把握を求めており、採点にあたってもこの点を重視していることをまず注意しておきます。
問題では、最初に球の径や立体の体積の算出を求めていますが、これは単なる計算問題ではなく、3立体の大きさを数値として相互比較する上でヒントになるものです。また、三面図は複雑な立体の形状を正確に把握するためのものです。しかし、本年度の答案では、この段階でのミスが目立ち、さらには問題文の誤読(特に円すいの高さを母線と混同した事例)が散見されたことは残念でした。
なお、本年度の問題で示された立体Cは、立方体から三角すいを除いたものから構成されており、母体となった立方体を念頭におけば、体積の算出や三面図の作成が容易になったことを付記しておきます。
描写に関しても、3つの立体それぞれの形状と各部のプロポーション、3つの立体の大きさの相互関係が正確に描かれているかをまず重視し、ついで配置方法や素材感あるいは光の投影状態の描写などについても注目して採点を行いました。
答案の中には、
〇 球が他の2つに対して著しく小さいもの
〇 立体Cの形状が正しくないもの
〇 3つの立体の素材感に相違がみられないもの
〇 立体の形状と光の投射による陰影の間に齟齬がみられるもの
が比較的多く見られたのは残念でした。
以下、合格者の解答例です。
最後に繰り返しになりますが、出題文をよく読んで出題意図を咀嚼すること、立体の形状を正確に把握することに特に留意して試験に臨んで下さい。以下に、模範解答(設問1・2)を掲示しておきます。
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[総合表現](2日目)
本年度の問題は、身の回りに当たり前のように存在する物理現象の本質を、どこまで原理的に、同時に感覚的に捕えることができるのかを問うものでした。
たとえばお椀型の容器が浮かぶ原理は問題文に例示した通りですが、伏せて空気を封じ込めても浮かびます。また、その状態になんらかの力が加わると、安定が崩れたり、変化したりもします。お風呂や台所で誰しも覚えのある経験や、そこに感じる力学的な手ごたえを、受け流すことなく観察したり思考したりする知的好奇心や、そうした原理への理解を創造的な発想に結び付けることのできる展開力を問うことが、主たる出題意図です。
問題文には数値を伴う設定がありますが、必ずしも数学的に厳密な採点を下すことを意図したものではありませんでした。むしろ、数値が示す物質の量感やそれが浮くという現象を、実感を伴って感覚的に捉えられているのかどうかが判定を左右する大きなポイントとなってます。解答を概観すると、水に対する比重が2の物質が浮く、という現象への根本的な理解に疑問を禁じ得ない表現が多く見られたことは残念でしたし、逆に現象の本質を大掴みにイメージできていると感じられる表現は、多少の非現実性があろうとも積極的に評価の対象となりました。
加えて、例年草案用紙に残された思考の痕跡は、成果物の背後にある思考や発想を評価する上での重要な指標となっていることを強調しておきたいと思います。一見見栄えの良い解答でも、草案用紙が白紙の場合には評価を躊躇することがあり得ますし、逆に描写力の不足が、草案用紙に残る思考過程によって補われることもあります。今回設問1を設けた理由は上記によるものです。なお、スタディ用のケント紙や粘土、加工のための糸などは、あくまでも発想や思考の助けとして置かれていたものであり、問題文中にこれらの使用を義務付ける記述や、模型表現を要求する設問はなかったことも付記しておきます。
以上2点、解答例A
厚みを滑らかに変化させながらダイナミックに連続する造形の中に、浮くためのかたち、雨水をたたえるかたち、遠くから見た姿、上陸して体験する空間など、求められた複数の条件を柔らかく統合させている点が高く評価された。船からXに乗り移る際に、溜まった雨水によってその高さが上下する可能性がどのように考慮されているのかなど、より踏み込んだ説明があるとなお良かった。
以上2点、解答例B
浮かぶための手段を、空気を閉じ込めた浮袋を作る、という手堅い選択で満たしつつ、そこに僅かに起伏した地形のような水平面を組み合わせた、たいへんシンプルな提案である。しかしながら、遠景では重量感のある塊が浮遊する不思議さが際立ち、近寄ると一転して、静かな波打ち際や干潟のような場が迎えてくれるという、多面的で豊かな構成とその構想力に評価が集まった。
以上2点、解答例C
どこまでも広がり、捉えどころなく変化していく空を細長く切り取ることで、その滑らかな色彩変化の階調を鮮明に感じることができる場所を生み出すという発想と構成が評価された。船を寄せてから上陸するまでの、体験の連続性に思考を向けている点も良かったが、X底部への人の移動方法や、そこに溜まった水深と歩行経路の関係など、設問1に対する記述や図示に曖昧さが否めない点は指摘しておきたい。
以下に、令和4年度の美術学部建築科入学試験の参考作品とその評価基準を掲載します。令和3年度以前については本ページの下段のリンクから参照できます。
なお、試験問題については、こちらを参照してください。
令和4年度美術学部建築科入試問題用紙(PDF)
また、令和5年度入学試験に関する情報は、大学入試情報サイトに掲載される募集要項を参照してください。(11月頃掲載予定)
東京藝術大学入試情報サイト
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[空間構成] (1日目)
この試験は、与えられた文章が定義する立体を、条件に従って構成・表現する力を問うものです。
本年度は、展開図で示された立体の複雑な形状を把握した上で、これに円すいと球を組み合わせて配置し描写するものでした。
この試験では、例年、立体形状の正確な把握を求めており、採点にあたってもこの点を重視していることをまず注意しておきます。
問題では、最初に球の径や立体の体積の算出を求めていますが、これは単なる計算問題ではなく、3立体の大きさを数値として相互比較する上でヒントになるものです。また、三面図は複雑な立体の形状を正確に把握するためのものです。しかし、本年度の答案では、この段階でのミスが目立ち、さらには問題文の誤読(特に円すいの高さを母線と混同した事例)が散見されたことは残念でした。
なお、本年度の問題で示された立体Cは、立方体から三角すいを除いたものから構成されており、母体となった立方体を念頭におけば、体積の算出や三面図の作成が容易になったことを付記しておきます。
描写に関しても、3つの立体それぞれの形状と各部のプロポーション、3つの立体の大きさの相互関係が正確に描かれているかをまず重視し、ついで配置方法や素材感あるいは光の投影状態の描写などについても注目して採点を行いました。
答案の中には、
〇 球が他の2つに対して著しく小さいもの
〇 立体Cの形状が正しくないもの
〇 3つの立体の素材感に相違がみられないもの
〇 立体の形状と光の投射による陰影の間に齟齬がみられるもの
が比較的多く見られたのは残念でした。
以下、合格者の解答例です。
最後に繰り返しになりますが、出題文をよく読んで出題意図を咀嚼すること、立体の形状を正確に把握することに特に留意して試験に臨んで下さい。以下に、模範解答(設問1・2)を掲示しておきます。
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[総合表現](2日目)
本年度の問題は、身の回りに当たり前のように存在する物理現象の本質を、どこまで原理的に、同時に感覚的に捕えることができるのかを問うものでした。
たとえばお椀型の容器が浮かぶ原理は問題文に例示した通りですが、伏せて空気を封じ込めても浮かびます。また、その状態になんらかの力が加わると、安定が崩れたり、変化したりもします。お風呂や台所で誰しも覚えのある経験や、そこに感じる力学的な手ごたえを、受け流すことなく観察したり思考したりする知的好奇心や、そうした原理への理解を創造的な発想に結び付けることのできる展開力を問うことが、主たる出題意図です。
問題文には数値を伴う設定がありますが、必ずしも数学的に厳密な採点を下すことを意図したものではありませんでした。むしろ、数値が示す物質の量感やそれが浮くという現象を、実感を伴って感覚的に捉えられているのかどうかが判定を左右する大きなポイントとなってます。解答を概観すると、水に対する比重が2の物質が浮く、という現象への根本的な理解に疑問を禁じ得ない表現が多く見られたことは残念でしたし、逆に現象の本質を大掴みにイメージできていると感じられる表現は、多少の非現実性があろうとも積極的に評価の対象となりました。
加えて、例年草案用紙に残された思考の痕跡は、成果物の背後にある思考や発想を評価する上での重要な指標となっていることを強調しておきたいと思います。一見見栄えの良い解答でも、草案用紙が白紙の場合には評価を躊躇することがあり得ますし、逆に描写力の不足が、草案用紙に残る思考過程によって補われることもあります。今回設問1を設けた理由は上記によるものです。なお、スタディ用のケント紙や粘土、加工のための糸などは、あくまでも発想や思考の助けとして置かれていたものであり、問題文中にこれらの使用を義務付ける記述や、模型表現を要求する設問はなかったことも付記しておきます。
以上2点、解答例A
厚みを滑らかに変化させながらダイナミックに連続する造形の中に、浮くためのかたち、雨水をたたえるかたち、遠くから見た姿、上陸して体験する空間など、求められた複数の条件を柔らかく統合させている点が高く評価された。船からXに乗り移る際に、溜まった雨水によってその高さが上下する可能性がどのように考慮されているのかなど、より踏み込んだ説明があるとなお良かった。
以上2点、解答例B
浮かぶための手段を、空気を閉じ込めた浮袋を作る、という手堅い選択で満たしつつ、そこに僅かに起伏した地形のような水平面を組み合わせた、たいへんシンプルな提案である。しかしながら、遠景では重量感のある塊が浮遊する不思議さが際立ち、近寄ると一転して、静かな波打ち際や干潟のような場が迎えてくれるという、多面的で豊かな構成とその構想力に評価が集まった。
以上2点、解答例C
どこまでも広がり、捉えどころなく変化していく空を細長く切り取ることで、その滑らかな色彩変化の階調を鮮明に感じることができる場所を生み出すという発想と構成が評価された。船を寄せてから上陸するまでの、体験の連続性に思考を向けている点も良かったが、X底部への人の移動方法や、そこに溜まった水深と歩行経路の関係など、設問1に対する記述や図示に曖昧さが否めない点は指摘しておきたい。